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はじめに:セミナーでよくいただくご質問
前回の記事で足関節の靭帯の中で外側靭帯を取り上げました。
この外側靭帯は内反捻挫で問題となるため、臨床場面で担当することが多い靭帯です。
本記事では外反捻挫の時に実施する整形外科的テストの中でも、特に代表的な”前方引き出しテスト”と”距骨傾斜テスト”について解剖学の視点から解説をさせていただきます。
セミナー講師のお仕事をさせていただいていると、以下のようなご質問を多くいただきます。
- 受傷機転は足関節の内反という一つの動きであるにも関わらず、なぜ受傷を判断するテストは二つ実施するのですか?
- 教えてくれる講師の先生方によってテスト時の足関節の角度が違うのですが、解剖学的にはそれぞれのテストで最も適切な関節角度はありますか?
- 単独損傷の場合でも複合損傷の場合でも、テストを実施した時の不安定性の反応は同じでしょうか?
- 前方引き出しテストでは距骨を内旋させる場合もありますが、それはなぜですか?
上記のご質問について、解剖学の視点からそれぞれ解説したいと思いますので宜しくお願い致します。
以下が本記事で取り上げる内容です。
◯内反捻挫であるにも関わらず損傷の有無の評価は内反ストレステストだけではない?
◯前距腓靭帯が内反ストレスをほとんど受けない解剖学的理由
◯前距腓靭帯の損傷は前方への推進力が影響する?
◯解剖学的に適切な足関節角度とは?
◯単独損傷と複合損傷での不安定性の違い
◯前方引き出しテストで距骨を内旋させる解剖学的理由
内反捻挫であるにも関わらず損傷の有無の評価は内反ストレステストだけではない?
まず内反捻挫の受傷機転は足関節の内反に伴い損傷します(図1)。
よって、シンプルに考えると整形外科的テストは外側靭帯に内反ストレステストを実施すれば良いと思いませんか?
しかし、実際は”前方引き出しテスト”と”距骨傾斜テスト”という、ポジションやストレスをかける方向も異なる2つの検査が実施されます。
その理由についても解剖学的な視点から後半で解説をさせていただきますが、まずは前方引き出しテストと距骨傾斜テスト、それぞれの基本的な形からストレスをかける方向を確認します(図2,3)。
①前方引き出しテスト(図2)
・対象者のポジション:膝関節屈曲、足関節10-15度底屈位で保持
・検査者のポジション:対象者の下腿骨を保持しながら踵骨を前方に引く
・陽性の判断:距骨の過度な前方移動(4-5mm)→前距腓靭帯の損傷の疑い
②距骨傾斜テスト(図3)
・対象者のポジション:膝関節屈曲、足関節軽度背屈位で保持
・検査者のポジション:対象者の下腿骨を保持しながら踵骨を回外させる
・陽性の判断:損傷してない側と比較して5°以上の移動が伴う場合またはエンドフィールが不明瞭な場合→踵腓靭帯の損傷を疑う
※両テストともに対象者のポジションは膝関節を屈曲位とします。その理由は踵骨に付着する腓腹筋の緊張を軽減させ、踵骨の動きを阻害しないようにするためです
前距腓靭帯が内反ストレスをほとんど受けない解剖学的理由とは
解剖学的に”内反”という動きがどこの関節で動いているのかを理解することで解決することができます。
以前に”距骨”の記事も書かせていただいておりますが、距骨に関係する関節の形態解剖学を考える必要があります。
距骨の近位側には距腿関節(距骨と脛骨・腓骨の間の関節)と距骨の遠位側には距骨下関節(距骨と踵骨の間の関節)が代表的です。
まず距腿関節は主に足関節の底屈と背屈の動きに機能し、距骨下関節は主に足関節の内反と外反の動きに機能します。
その理由を解剖学的な視点から解説します。