こんにちわ。吉田俊太郎です。
本ブログは触診リテラシーを高めることを目標に、普段の評価や治療に役立ててもらえましたら嬉しいです。
今回取り上げる部位は橈骨の遠位に位置する”リスター結節”です。
リスター結節は橈骨の背側で遠位部に位置する盛り上がった結節です(図1)。
目次
リスター結節を触診する臨床場面
まず皆さんはどのような場面でリスター結節に触れますか。
リスター結節は腱鞘炎で問題となりやすい伸筋区画の腱が周囲を走行しているため、どの伸筋区画の腱が痛みの原因になっているのか判断する時のランドマークになります(図2)。
また、リスター結節から真っ直ぐ尺骨側に移動すると、橈骨の尺骨切痕と尺骨の尺骨頭で形成される”遠位橈尺関節”の高さに一致します(図1-b)。
その遠位橈尺関節は前腕の回内・回外に働く大切な関節であるため、前腕の回内や回外に関節可動域制限がある患者さんの評価や治療場面で触れることもあります。
リスター結節は第二・三指のライン上に位置する?
前腕・手編の触診セミナーで、リスター結節は必ず触診をしていただくのですが、その時にランドマークは第2または3指のライン上で近位になぞっていくと、リスター結節に触れられることをお伝えしています(図3)。
ただ、沢山の患者さんに触れていると、第2指のライン上にリスター結節がある方もいれば、第3指のライン上にリスター結節がある方に分かれることを、普段から患者さんに触れていて感じていました。
そのため、リスター結節の位置は、少しの違いではあるものの、位置にバリエーションがあるのではないかと思っていました。
リスター結節は二つの結節にて形成される
一般的にリスター結節は一つの結節であると認識されていると思います。
しかし、研究によっては、リスター結節は二つの結節から構成されており、一つはリスター結節の橈骨側の結節、二つ目がリスター結節の尺骨側の結節とに分かれていることが報告されています(図4)1)。
二つのリスター結節の形状のバリエーション
研究レベルでリスター結節を観察すると、二つの結節で形成されていますが、この二つの結節の形状には、いくつかのバリエーションがあることが報告されています(図5)1)。
タイプ1は橈骨側の結節が尺骨側の結節よりも大きいタイプで、360骨のリスター結節を観察したうちの249骨が該当し、割合では全体の69.2%でした(図5,a-b)。
さらにタイプ1は2つの形状があり、両方の結節の形状が三角形であるもので、全体からみた割合は41.4%(図5-a)、もう一つが橈骨側の結節は幅広で箱型かつ尺骨側の結節は長母指伸筋(EPL)の腱の高さの約半分程度で、全体からみた割合は27.8%でした(図5-b)。
タイプ2は橈骨側の結節と尺骨側の結節が同じ高さにあるタイプで、360骨のリスター結節を観察したうち77骨が該当し、割合では全体の21.4%でした(図5,c-d)
タイプ1と同様にタイプ2も二つの形状があり、両方の結節が長母指伸筋(EPL)の腱と同じ高さであるもので、全体からみた割合は11.1%(図5-c)、もう一つが両方の結節が長母指伸筋(EPL)の腱よりも低いもので、全体からみた割合は10.3%でした(図5-d)。
タイプ3は橈骨側の結節よりも尺骨側の結節の方が大きいタイプで、360骨のリスター結節を観察したうちの34骨が該当し、割合では全体の9.4%でした(図5,e-f)
タイプ3もさらに2つの形状があり、尺骨側の結節は三角形で橈骨側の結節は長母指伸筋(EPL)の腱はの高さよりも低いもので、全体からみた割合は6.4%(図5-e)、もう一つが尺骨側の結節は幅広で箱型で橈骨側の結節は存在しないもので、全体からみた割合は3.1%でした(図5-f)。
以上の報告より、二つの結節からなるリスター結節は、橈骨側の結節が明瞭なタイプが約7割と多いことが分かります。
リスター結節は橈骨の中央に対して橈骨側それとも尺骨側どちらに位置する?
二つのリスター結節のうち、大きい方のリスター結節が、橈骨の茎状突起と橈骨の尺骨切痕のどちら側に近いかについても研究されています(図6)2)。
その結果、リスター結節が橈骨の茎状突起に近いのは、20骨を観察したうちの11骨で、全体の55%でした。
それに対して橈骨の尺骨切痕に近いのは、20骨を観察して9骨で、全体の45%でした。
橈骨側のリスター結節が小さい場合や存在しない場合の問題点
上記の二つの研究から分かったことは、一般的に橈骨側のリスター結節の方が大きく、かつ橈骨の中央よりも橈骨側に近い位置にリスター結節が存在することが多いことが分かりました。
しかし、中には橈骨側の結節が、長母指伸筋の腱の高さよりも低かったり、場合によっては存在しないこともあることも分かりました。
リスター結節の一つの役割として、長母指伸筋の滑車になっていることがあげられます。
長母指屈筋は母指に停止するため、長母指屈筋の橈骨側にリスター結節があることで、リスター結節に長母指伸筋の腱が引っかかり滑車の役割を担うことができます(図7)。
そのため、橈骨側のリスター結節が小さい、または存在しないと、長母指伸筋の滑車の役割は十分に果たすことができないことが理解できます。
そうなると、母指を伸展する度に長母指伸筋の腱が橈骨側に滑ってしまい、骨の間で摩擦が生じ、長母指伸筋の腱の腱鞘炎を呈しやすいことにつながります。
以上により、長母指伸筋の腱に圧痛があり、母指の伸展で疼痛が生じる症例の方がいた場合には二つのリスター結節の位置やサイズの違いなどを、ぜひ評価して見てください。
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参考文献
1.Chan WY, Chong LR. Anatomical Variants of Lister’s Tubercle: A New Morphological Classification Based on Magnetic Resonance Imaging. Korean J Radiol. 2017 Nov-Dec;18(6):957-963. doi: 10.3348/kjr.2017.18.6.957. Epub 2017 Sep 21.
2.Ağır I, Aytekin MN, Küçükdurmaz F, Gökhan S, Cavuş UY. Anatomical Localization of Lister’s Tubercle and its Clinical and Surgical Importance. Open Orthop J. 2014 Apr 4;8:74-7.