一つ前の記事では、臨床現場で膝関節筋に対する評価やアプローチを実践していくに辺り、知っておきたい膝関節筋の形態解剖学について発信いたしました。
https://shuntaroblog.com/%e8%86%9d%e9%96%a2%e7%af%80%e7%ad%8b%e3%81%ae%e5%bd%a2%e6%85%8b%e8%a7%a3%e5%89%96%e5%ad%a6/本記事では、前記事の内容から実際の臨床で、どのように活かしていくかを解説いたします。
膝関節筋は膝蓋上包を持ち上げる?
膝関節筋が臨床で取り上げられることが多いのは、膝関節を伸展した時に膝蓋骨の上(近位)に痛みやつまり感といった症状がある場合ではないでしょうか?
その理由は膝関節筋の役割が、膝関節伸展時に膝蓋上包を引き上げて、膝蓋骨と大腿骨の間に膝蓋上包が挟まれないようにするためです(図1-a)。
それに対して膝関節伸展時に膝関節筋がしっかり働かない場合には、膝蓋上包を上に引き上げられず、膝蓋骨と大腿骨の間に膝蓋上包が挟まってしまいます(図1-b)1)。
膝関節筋の力だけでは膝蓋上包を持ち上げるには不十分 ?
膝関節筋が臨床的に注目されるようになったのは膝関節筋の停止が膝蓋上包に停止しており、膝関節伸展時に膝蓋上包が膝蓋骨と大腿骨の間に挟まれることを防止するためです。
ただ、研究者や臨床家の中で、膝関節筋の筋自体のボリューム(大きさ)を評価して、膝蓋上包を持ち上げられるだけの力があるのかという疑問を持った方がいます。
膝関節筋の生理学的断面積※の平均は、1.5±0.7 cm 2(範囲:0.5~3.3 cm 2)2)、これはかなり小さいです。(ちなみに外側広筋のPCSAは21.6 cm 2)3)。
※生理学断面積とは筋線維に直角にカットした時の断面積のことで最大筋力を表します。
膝蓋上包を持ち上げる筋は内側広筋も関係していた?
膝関節筋のボリュームから膝蓋上包を持ち上げるだけの力があるのかという疑問を解決してくれる興味深い研究があります。
図2をご覧下さい。まずオレンジ線の膝関節筋は前述の通り遠位では(イラストでは左下)緑色の膝蓋上包の上縁に付着しています。
さらにオレンジ線の膝関節筋は赤色の内側広筋と連結しており、膝関節筋の一部は内側広筋に付着していることが明らかになっています。
また赤色の内側広筋は大腿の中央まで拡大し青色の中間広筋を挟むように位置しています。
よって内側広筋が働くことで中間広筋も働きやすくなり、中間広筋にも膝関節筋の一部が付着しているため、ボリュームの小さい膝関節筋の作用を助けるためには、ボリュームの大きな内側広筋と中間広筋の働きが、とても重要であることが理解できます。
まとめ
これまでは膝関節を伸展時した際に、膝関節筋は単独で膝蓋上包を引き上げると考えられてきましたが、膝関節筋の研究によって中間広筋と内側広筋が働くことで、連動して膝関節筋も働き、膝蓋上包を持ち上げるのに十分な力を獲得できていることが理解できます。
これらのことから担当した患者さんで膝蓋上包の引き上げが問題で膝蓋骨上包に違和感や痛みを訴える患者さんにはぜひ中間広筋と内側広筋にもアプローチしてみていただきたいと思います。
(内側広筋は中間広筋や膝関節筋に比べ体表上からも操作しやすい筋ですので、ぜひ直接触れて操作してみていただきたいと思います)。
体表上に膝蓋上包と膝関節筋をマーキングした画像もぜひご覧ください(図3)。
体表上でどの程度の幅でどの程度の高さがあるのか理解できるとスムーズな介入ができます(図3)。
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参考文献
1. 安岡武紀, 膝関節筋の肉眼解剖学的観察 久留米医会誌, 74 : 14-22, 2011
2.Post WR. Anterior knee pain: diagnosis and treatment. J Am Acad Orthop Surg. 2005;13:534-43.
3.I. BECKER, The Vastus Lateralis Muscle:An AnatomicalInvestigation, Clinical Anatomy 23:575–585 (2010)