上肢編

回旋筋腱板損傷と睡眠障害の関係

回旋筋腱板損傷( rotator cuff tears)を伴う患者さんで多い苦情の一つが睡眠障害(sleep disorders)です。
しかしながら両者の相関関係についてまとめられたものは少ないように思います。

よって本記事では”回旋筋腱板損傷”と”睡眠障害”について別々に整理します。

 

1.回旋筋腱板損傷の特徴

まず回旋筋腱板損傷による弊害は様々あります。ここでは4つの弊害を挙げさせていただきます。

①肩関節の機能障害
②うつ病
③不安
④睡眠障害

これらより、回旋筋腱板損傷は身体面、精神面とあらする面の機能を妨げる可能性があることが分かります1)。

私も臨床で回旋筋腱板損傷の患者さんを担当した時に肩関節の機能障害以外に夜間痛などにより睡眠障害を呈しており、睡眠に不安をもたれていたり、眠れないことで気分が落ち込みうつ傾向にある患者さんを沢山経験しています。

ここでは回旋筋腱板損傷の様々な弊害がある中でも、個人的に睡眠障害で悩まれている方が多いので、”回旋筋腱板損傷”と”睡眠障害”との関係性について整理したいと思います。

データから回旋筋腱板損傷が原因で睡眠障害を呈している方の割合を確認してみると、回旋筋腱板損傷の患者の内で正常な睡眠ができているのは驚くことに11%のみという報告があります2,3)。

私自身が臨床で回旋筋腱板損傷の方を担当させていただくと大半の方が睡眠障害で悩まれている印象がありましたので、論文のデータと臨床で感じている感覚とが個人的には一致していました。

 

2. 睡眠障害(sleep disorders)の特徴

次に睡眠障害(sleep disorders)についてです。
睡眠障害は一般人口の15%から35%であると報告されています2,6)。

睡眠障害による弊害も①身体面、②精神面、③社会面、④感情面とあらする面の機能を妨げる可能性がある

睡眠障害は病気という認識はあまりないように感じています。
しかし、深刻な睡眠障害は医学的障害として扱われており、対象者の生活の質に悪影響を及ぼし、気分障害(mood disorders)や不安(anxiety)にまで悪影響を及ぼします4,5)。

3. なぜ睡眠障害が発生するのか

睡眠障害が発生する理由は肩関節の疼痛は夜間に増加しやすいためです。疼痛のために寝つきが悪くなったり、痛みで何度も起きてしまうため睡眠障害が発生します。

では、なぜ夜間に疼痛が増加しやすいかというと炎症性サイトカイン( inflammatory cytokines)の産生が増加するためであると言われています。

回旋筋腱痛損傷が原因の疼痛は手術によって身体面、心理面が改善し全体的に健康面が回復することが報告されています 7)。

しかしその反面で睡眠障害は術後も訴えられる可能性が高い問題です。

それを裏付ける論文的なデータでは、関節鏡(arthroscopic)による回旋筋腱痛損傷の術後で2年経過した患者の41%が夜間の疼痛などにより睡眠障害を持っていると報告しています8)。

術後においても疼痛が持続してしまう原因には以下3点あります。

①機能障害の残存(functional deficits)
②強制的な位置の保持( maintaining a forced position)
③肩のこわばり(shoulder stiffness)

上記の問題に対しては一般的に理学療法(physiotherapy)や投薬(medication)などの保存的治療(conservative treatment)が効果的であり良い影響が報告されています4,9)。

睡眠障害の原因は夜間痛にあること、術後においても夜間痛が持続してしまう原因も理学療法が主な対処方法になることがわかります。

よって上記の3つの問題点に対して、それぞれどのような理学療法が効果的か次からの発信で解説させていただきたいと思います。

 

◯参考文献

1. Cho C.H., Jung S.W., Park J.Y., Song K.S., Yu K.I. Is shoulder pain for three months or longer correlated with depression, anxiety, and sleep disturbance? J. Shoulder Elb. Surg. 2013;22:222–228. doi: 10.1016/j.jse.2012.04.001.
2. Austin L., Pepe M., Tucker B., Ong A., Nugent R., Eck B., Tjoumakaris F. Sleep disturbance associated with rotator cuff tear: Correction with arthroscopic rotator cuff repair. Am. J. Sports Med. 2015;43:1455–1459. doi: 10.1177/0363546515572769.
3. Horneff J.G., Tjoumakaris F., Wowkanech C., Pepe M., Tucker B., Austin L. Long-term Correction in Sleep Disturbance Is Sustained After Arthroscopic Rotator Cuff Repair. Am. J. Sports Med. 2017;45:1670–1675. doi: 10.1177/0363546517692551. 
4. Khazzam M.S., Mulligan E.P, Brunette-Christiansen M., Shirley Z. Sleep Quality in Patients with Rotator Cuff Disease. J. Am. Acad. Orthop. Surg. 2018;26:215–222. doi: 10.5435/JAAOS-D-16-00547.
5. Mulligan E.P., Brunette M., Shirley Z., Khazzam M. Sleep quality and nocturnal pain in patients with shoulder disorders. J. Shoulder Elbow. Surg. 2015;24:1452–1457. doi: 10.1016/j.jse.2015.02.013.
6. Serbest S., Tiftikçi U., Askın A., Yaman F., Alpua M. Preoperative and post-operative sleep quality evaluation in rotator cuff tear patients. Knee Surg. Sports Traumatol. Arthrosc. 2017;25:2109–2113. doi: 10.1007/s00167-016-4228-5.
7. Cho C.H., Jung S.W., Park J.Y., Song K.S., Yu K.I. Is shoulder pain for three months or longer correlated with depression, anxiety, and sleep disturbance? J. Shoulder Elb. Surg. 2013;22:222–228. doi: 10.1016/j.jse.2012.04.001.
8. Horneff J.G., Tjoumakaris F., Wowkanech C., Pepe M., Tucker B., Austin L. Long-term Correction in Sleep Disturbance Is Sustained After Arthroscopic Rotator Cuff Repair. Am. J. Sports Med. 2017;45:1670–1675. doi: 10.1177/0363546517692551
9. Minns Lowe C.J., Moser J., Barker K. Living with a symptomatic rotator cuff tear ‘bad days, bad nights’: A qualitative study. BMC Musculoskelet Dis. 2014;15:228. doi: 10.1186/1471-2474-15-228.