上肢編

棘上筋の前方は後方に比べ2.8倍もの負荷がかかる

こんにちわ。吉田俊太郎です。

本ブログは理学療法士・作業療法士のリハビリ職の方やトレーナーの方向けに発信しています。

前記事では棘上筋について調査した最新の解剖学研究について紹介させていただきました。

具体的には棘上筋は一つの塊の筋ではなく、前部線維と後部線維の二つの塊に分けて記載されていること、どのような基準で前部線維と後部線維に分けられているのか解説しました。

本記事では、棘上筋の前部線維と後部線維のそれぞれの筋線維と腱について確認し、前部線維と後部線維のどちらの方が大きな力が働くのかを、解説したいと思います。

ちなみに、本記事は下記に添付してあります、前記事の続きになりますので、前記事をまだ読まれていらっしゃらなければ、まずは下記の記事からお読みください。

棘上筋の前部線維と後部線維の形態解剖学
棘上筋の形状の実際 こんにちわ。吉田俊太郎です。本ブログは理学療法士・作業療法士のリハビリ職の方やトレーナーの方向けに発信しています。今回取り上げるのは、...
目次

① 棘上筋の前部線維の解剖学
 ・前部線維の筋線維の特徴
 ・前部線維の腱の特徴

② 棘上筋の後部線維の解剖学
 ・後部線維の筋線維の特徴
 ・後部線維の腱の特徴

③ 前部線維と後部線維の筋線維と腱の比較検証

④ なぜ前部線維と後部線維で構造を変える必要があるのか?

棘上筋の前部線維の解剖学

棘上筋の前部線維とは、棘上筋を上方から観察した時の前方部分であり(図1)、かつ筋の中に腱が存在(筋内腱)が確認できる領域を”棘上筋の前部線維”と定義されていました(図2)。
この腱は外に行くほど太くなっていました。

棘上筋の筋線維の特徴
前部線維
後部線維
棘上筋の腱の特徴
筋内腱
筋外腱

ここからは棘上筋の前部線維の筋束と腱のそれぞれ特徴について解説します。

前部線維の筋線維の特徴

棘上筋の前部線維の起始は肩甲骨の棘上窩から起始し(図3-a)、筋の形状は紡錘状筋です(図3-b)。

また前部線維の生理学的断面積※についても報告されており、力の強さの一要因である140±43mm2です(表1)1)。

生理学的断面積とは?

筋線維の方向に対して直角に切断した時の、筋の断面積を意味する。
生理学的断面積の数値が大きいほど、大きな力を発揮することが意味する。

棘上筋の前部線維の特徴
棘上窩
紡錘状筋(平行筋)

前部線維の腱の特徴

棘上筋の前部線維の腱の形状はチューブ状です(図2)。
また腱の幅についても報告されており、棘上筋の全体の腱幅のうち40%を占めています。さらに腱の断面積は26.4±11.3mm2と報告されています1)。

棘上筋の後部線維の解剖学

棘上筋の後部線維とは、棘上筋を上方から観察した時の後方部分であり(図1)、かつ筋の中に腱が存在(筋内腱)が確認できない領域を”棘上筋の後部線維”と定義されていました(図2)。

ここからは棘上筋の後部線維の筋束と腱のそれぞれ特徴について解説します。

後部線維の筋線維の特徴

棘上筋の後部線維の起始は肩甲骨の肩甲棘と肩甲骨の関節窩頸から起始し(図4-a)、筋の形状は半羽状筋です(図4-b)。
また後部線維の生理学的断面積についても報告されており、62±25mm2です(表1)1)。

棘上筋の後部線維の特徴
肩甲棘
関節窩頸
半羽状筋

後部線維の腱の特徴

棘上筋の後部線維の腱の形状は平らで幅広です(図2)。
また腱の幅についても報告されており、棘上筋の全体の腱幅のうち60%を占めています。
よって上腕骨頭の上を広く覆っている腱は後部線維の腱であることが分かります。

さらに腱の断面積は31.1±10.1mm2と報告されています(前部線維の腱に比べ薄いが幅が広いのが特徴かと思います)1)。

前部線維と後部線維の筋線維と腱の比較検証

ここまで前部線維と後部線維のそれぞれの筋線維の特徴と腱の特徴について整理しました。

ここでは比較し、前部線維と後部線維でどちらに大きな力が働きやすいのか解説します。

前部線維の筋線維の形状が紡錘状筋であることからも、大きな力が働くことが予想されますが、やはり力の大きさを表す生理学的断面積においても、前部線維の方が大きいことが分かりました(表1-a)

それに対して、腱では前部線維の方が断面積が小さいことがわかります(表1-b)。

よって相対的に前部線維は後部線維と比較して、2.8倍もの大きな力がかかっていることが有意差を持って分かります1)。

前部線維と後部線維の筋線維と腱の比較
生理学的断面積

なぜ前部線維と後部線維で構造を変える必要があるのか?

最後にそもそも、なぜ棘上筋は構造上の違いにより前部線維と後部線維に分けられるのでしょうか?
その理由は肩関節の作用に関係してきます。

棘上筋の作用は、肩関節の外転と記述されますが、機能解剖学の研究では棘上筋が外旋にも作用すると報告されています2,3,4,5,6)

担当した患者さんやクライエントの方の、疼痛の訴えが、肩関節の外転で生じているのか?それとも外旋で生じているのか?

外旋の場合には棘上筋ではなく、棘下筋を疑いアプローチすることが一般的ですが、棘下筋にアプローチしても疼痛が改善しなく悩まれている方にはぜひ読んでいただけましたら幸いです。

棘上筋のどのエリアが肩関節の外転に作用し、棘上筋のどのエリアが外旋に作用するのか?を解剖学的に解説させていただくことで、臨床に応用していただけたらと思います。

記事が完了した際には、改めて下記に添付したいと思います。

参考文献

1.Roh M 1999 Anterior and posterior musculotendinous anatomy of
the supraspinatus. www.medscape.com/Medscape/CNO/1999/
AAOS/02.07/07.roh-01.html

2.Bassett RW, Browne AO, Morrey BF, et al. 1990. Glenohumeral muscle force and moment mechanics in a position of shoulder instability. J Biomech 23: 405– 415.

3.Kuechle DK, Newman SR, Itoi E, et al. 2000. The relevance of the moment arm of shoulder muscles with respect to axial rotation of the glenohumeral joint in four positions. Clin Biomech (Bristol, Avon) 15: 322– 329.

4.Langenderfer JE, Patthanacharoenphon C, Carpenter JE, et al. 2006. Variation in external rotation moment arms among subregions of supraspinatus, infraspinatus, and teres minor muscles. J Orthop Res 24: 1737– 1744.

5.Otis JC, Jiang CC, Wickiewicz TL, et al. 1994. Changes in the moment arms of the rotator cuff and deltoid muscles with abduction and rotation. J Bone Joint Surg Am 76: 667– 676.

6.Ihashi K, Matsushita N, Yagi R, et al. 1998. Rotational action of the supraspinatus muscle on the shoulder joint. J Electromyogr Kinesiol 8: 337– 346.