オフ会(セミナー)

『経験談:臨床で触察が重要な理由』

触診技術が臨床で重要であると感じたきっかけ

最終学年の実習先でのこと、他の学校の生徒さんの実習地訪問でリハビリ業界で有名な某先生と初めてお会いしました。

その際に、私が担当させていただいていた患者さんの評価とアプローチをその場で実践してくださいました。

その時の会話は以下のような内容でした(15年以上前のことですので記憶がやや曖昧ではありますが・・要点はしっかり覚えています)。

某先生

担当されている患者さんはどのような事で困っていているの?

私(学生)

患者さんは物を取るときに肘が伸びにくく困っているので、肘を伸ばすストレッチをしています。

某先生

どうして肘が伸びないのかな?

私(学生)

肘を伸ばすと痛みがあるからです。

某先生

何が原因で痛みが出ているのかは評価できている?

私(学生)

・・・・肘の前が痛いので肘の前の筋肉だと思っています・・

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痛みがある状態でストレッチをしたら防御性の収縮が入って、リハビリするごとに反対に硬くなってしまう可能性があるよ。

まずは痛みの原因の評価と痛みを改善するアプローチを考えてみよう!!
私もその患者さんを一緒に評価してアプローチまでしてみよう。

私が何週間かかけても、全く肘関節の伸展可動域を改善できなかった患者さんに対して、某先生は15-20分程で、肘関節が完全伸展できる状態まで改善してしまいました。

その時はウソのようで、どうして?と患者さんと共にマジックを見たような感覚とともに、患者さんの喜ばれる姿を見て理学療法をもっともっと学びたいと思った私の原点となりました。

その時に以下のことに気が付きました。

<評価場面では>
痛みの原因部位を探す時に”触診”にて細かく確認されており、最終的には10円玉程の範囲まで痛みの原因部位を探されていたこと
<アプローチ場面では>
アプローチ中は、評価で探し当てた痛みの原因部位に対して、常に手を当てられていたこと

私がアプローチで実施していたストレッチでは患者さんは「痛い、痛い」と言いながら、それでも肘が伸びるようになって欲しいという思いから、半ば強引にストレッチをしていました。

それに対して某先生のアプローチは実施中に患者さんが痛がる様子はほぼなく、それにも関わらず、肘関節は目に見えて伸びるようになりました。

その時に、痛みの原因部位を触診で探せるようになり、アプローチ中もその部位に手を当てられるようになると某先生のように、痛みや可動域の改善が自分もできるようになるのではないかと、その日から触診技術にとても興味を持つようになりました。

学生時代には触察の重要性に気が付きにくい

皆様も触診技術は、正確な評価や効果的なアプローチの実施に欠かせないことは、ほとんどの医療職の方には共感いただけるのではないでしょうか?

私が好きな言葉に「解剖を学ばずに治療することはモグラである」という言葉があります。

意味はモグラは目が見えない動物であるため、巣を作る時や餌を取る時には手探りで行うそうです。
よって解剖学を学ばずに治療するのは、手探りで治療しているのと同じですよ!!という例えです。

これまで講師活動もさせていただいておりますが、触察の研修会をしてほしいというご依頼がとても多いです。
これは正に触察が大切であると感じられている方が多いからだと思っています。

講師活動 実績(解剖学・運動器分野)↓↓

講師活動 実績(解剖学・運動器分野) 沢山のご依頼をいただき有難うございます。 理学療法士協会様 講習会 ・平成26年6月7日:実践的な筋触診(一般社団法人山形...

講師活動 実績(介護保険・訪問分野)↓↓

講師活動 実績(介護保険・訪問分野) 沢山のご依頼をいただき有難うございます。 平成25年・平成25年10月7日:廃用症候群に対する訪問リハビリテーション (区東部地...

しかし、臨床で使えるレベルまでの触察を学校で習ったことのある方は少ないように思います。

なぜなら、学生時代は国家試験に合格するための知識の習得が第一優先であるためです。
(私も専門学校の学生さんに触察の授業を7年間担当させていただいた経験があるので、学校の先生は学生さんに触察を教えてあげたいと思っていることも理解しています。ただ、限られた時間ですので、そこまで時間を確保できないというのが本音だと思います)。

また、臨床に出て実際の患者さんを担当してみないと、いかに臨床で触察能力が必要であるかイメージできないということもあると思います。

元に私も触察の重要性を感じたのは臨床に出てからでした。

臨床で触察が必須と痛感した出来事

私は前述させていただいた通り、某先生との出会いで学生時代から触診の重要性を理解していました。
それにも関わらず臨床に出てみて、以下のような経験をよくしてきました。

担当させていただいた患者さんが痛みを訴えられた時に、その訴えている部位の皮膚を取って、その中がどうなっているのか見ることができたら、患者さんに自信と根拠を持って原因の部位や痛みの理由を説明できるのにと!!
訴えている部位の中を探って見てみたいという経験を何度も何度もしてきました。

その度に体表上から全てが分かるようになりたいと強く想うようになりました。

なぜ学生時代に触診の重要性を理解したにも関わらず、このような思いを持つことになってしまったかというと、触診の重要性を知ってから、解剖学の教科書を一番手に取るようになっていました。
解剖学の知識が深まれば、触診ができると思っていたためです。しかし実際は違いました。

個人的に、触察という分野の立ち位置は、基礎と臨床の間に位置するもののように感じています。

なぜなら、基礎である机上での解剖学の理解がなければ、絶対に触診はできません。
(触察は机上での解剖学の理解を体表上に落とし込む作業だと思います)。

机上で紙に触察したい組織を描けなければ、間違いなく体表上で組織を描き触察することはできません。
(ただ、机上での知識を頭で理解しただけでは、私は体表上で触察できるようにはなりませんでした)。

それは臨床での評価やアプローチは机上で行うのではなく、もちろん生身の人の体で行うためだと、働いてから気が付きました。

机上でいくら理解ができても、それを体表上で表現できなければ意味がないと、働いたばかりの頃に痛感したことを覚えています。

触察と料理は似ている

個人的に触察は料理と似ていると感じます。

私は料理のサンプルをみても、サンプル通りに作ることはできません。
そのため同じ料理を作りたければ、直接手を取って教えていただくのが勿論一番上達できると思います。
また、一度覚えても、何度も作らなければ作り方を忘れてしまいます。

触察も同じで、触察しマーキングされた完成品の画像を見ただけでは、私自身が触れるようにはなりませんでした。
※ 参考:下記の画像は過去のオフ会で実施した触診とマーキングです↓↓

触る時の指の角度や組織の深さを意識した押す強さなど、触り方のポイントや触る時のポジション、組織ごとの触った時の感触の違いなどは、直接手にとって教えていただかないと分かりません。

そして正常の組織の感触も手にとって教えていただかないと、異常がある組織の感触も理解できません。

このように触察という技術は、料理と一緒で実際に手にとって教えていただかないと、なかなか独学は難しいと実感しており、私も触れなかった組織が、触れるようになった時の感動は今も鮮明し覚えています。

そして触れるようになったことで、日々の臨床に本当に自信が持てるようになりました。

私は、触察の技術を習得したいと思っている方の力になりたいという思いもあり、2015年頃からセミナーを定期的に行ってきました。

ただ、ここ2-3年は、コロナウイルスの影響により基本的には対面での触診に関する実技セミナーは実施しておりません。

触察含めた、実技関係のセミナーは実際に手を取り合って、行うのが何とよりも上達できると感じていますが、遠方の先生もいらっしゃるため、料理でいうキューピーの3分クッキングのようなイメージで、動画にて触り方の手順を一から解説させていただいています。

触察の動画は3分で解説とは、いきませんので、一つ組織の触察に平均10分程度の動画を撮影しています→今後、随時動画も発信していきたいと思っています。

今後も私が触診に興味を持ち学びたいと思ったとの同じような心境の先生方と共に学んでいけたらと思っています。