目次
はじめに
膝関節筋は解剖学的にはマイナーな筋ですが、臨床現場では膝関節疾患のアプローチの場面で、よく耳にする筋ではないでしょうか?
解剖学的にも、とても興味深い筋ですので、解剖学的な視点と臨床的な視点の両者から膝関節筋について観察していきたいと思います。
- 実は大腿四頭筋ではなく大腿五頭筋 !?
- 膝関節筋が存在する大腿前面は深さの異なる3層構造
- 膝関節筋の独自においても深さの異なる3層構造
- 膝関節筋は2つの起始領域を持っている!!
- 膝関節筋の停止は膝蓋上包?
実は大腿四頭筋ではなく大腿五頭筋 !?
解剖学の教科書では膝関節筋は大腿前面の筋として大腿四頭筋(大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋)と同じグループで記述されています。
では、なぜ大腿四頭筋と同じグループに「膝関節筋」が存在しているにも関わらず大腿五頭筋と明記されないのでしょうか?
その答えは、膝関節筋は中間広筋から枝分かれをした中間広筋分束の筋として認識されているためです(中間広筋の一部としての認識)。
ただ、大腿四頭筋の中に膝関節を含めて大腿五頭筋と書かれた教科書が存在します。
それは1954年にBraus & Elzeが書かれたドイツ語の解剖学書 “Anatomie des Menschen”1)です(図1)。
著者によっては”大腿五頭筋”と記述されているのは面白いところです。
それぞれの教科書で本文の記述や教科書内のイラストにわずかな違いがあり、その著者がどこを強調して読者に伝えたいと思っているのか理解することができます。
そのような視点で教科書を読んでみると更に楽しく勉強ができると思います。
膝関節筋が存在する大腿前面は深さの異なる3層構造
膝関節筋の起始を理解するためには、まず膝関節筋の位置(深さ)を確認する必要で、大腿前面の層構造の理解が重要です。
大腿の前面は前述した大腿直筋・内側広筋・外側広筋・中間広筋・膝関節筋が存在するわけですが、全て同じ高さに平行に存在しているわけではありません。
基本的には、表層(皮膚側)に大腿直筋、中間層に内側広筋と外側広筋、深層(骨側)に中間広筋と膝関節筋が位置し三層構造となっています(図2)2)。
図2では中間広筋まで描いており、膝関節筋は上記の通り定義上は中間広筋と同じ深層に分類されますが、実際は中間広筋の更に深層に位置しています。
そのような大腿前面の深い位置に存在すると理解いただきました上で、筋の解剖学の基本である起始を確認してみたいと思います。
膝関節筋の独自においても深さの異なる3層構造
ここから複雑になりますので、特に丁寧に解説させていただきます。
図3をご覧ください。右側大腿の全体を矢状面(前内側)から観察したものです。
大腿直筋(R)、内側広筋(VM)は切除し、中間広筋(VI)を外側にめくり上げることで、膝関節筋が存在する大腿前面の深層を観察することができます。
(膝関節筋は最も深層に位置するためその上にある筋を持ち上げないと確認することができません)。
まず膝関節筋の領域は図3の中の番号1,2,3です。
解剖学の研究では膝関節筋は3つのパーツ(3層構造)で構成されていることが観察されています。
つまり前述した大腿四頭筋は表層(皮膚側)に大腿直筋、中間層に内側広筋と外側広筋、深層(骨側)に中間広筋と膝関節筋の三層構造ですが、その内の膝関節筋は更に3層構造に分類されているということです。
番号1が膝関節筋の表層線維、番号2が膝関節筋の中間線維、番号3が膝関節筋の深層線維です。
膝関節筋は2つの起始領域を持っている!!
番号1の膝関節筋の表層線維の起始は、大腿骨と中間広筋の停止腱から起始します。
番号2の膝関節筋の中間線維の起始は、表層線維の60%は表層線維と同様に大腿骨と中間広筋の停止腱から起始し、残りの40%では大腿骨からのみ起始しています。
番号3の膝関節筋の深層線維の起始は、大腿骨からのみの起始になります。
よって膝関節筋は、表層線維は大腿骨と中間広筋の停止腱から起始し、深層線維は大腿骨からのみ起始し、中間線維はバリエーションがあり、60%の方では大腿骨と中間広筋の停止腱から起始し、残りの40%の方では大腿骨からのみ起始しています3)(表1)。
膝関節筋の停止は膝蓋上包?
膝関節筋が膝蓋上包※の上縁に停止しています(図4)。
※膝蓋上包とは膝関節の関節包のうち膝蓋骨の上の部分の領域を言います。
よって膝蓋上包を関節包と明記されている論文もあるので注意が必要です。
本記事では膝関節筋の基本的情報を発信させていただきました。
次の記事では、膝関節筋の臨床応用について発信します。
関連記事:【プレミアム記事】大腿四頭筋腱と膝蓋腱は繋がっていない?
参考文献
1. Braus H, Elze C. 1954. Anatomie des Menschen. 3rd Ed. Berlin: Springer. p 514–518.
2. Andrew C, Clinical Anatomy of the Quadriceps Femoris and Extensor Apparatus of the Knee, Clin Orthop Relat Res (2009) 467:3297–3306