こんにちわ。吉田俊太郎です。
本ブログは理学療法士・作業療法士のリハビリ職の方やトレーナーの方向けに発信しています。
今回取り上げるのは、回旋筋腱板の解剖学です。
その中でも特に”棘上筋”について取り上げます。
回旋筋腱板とは四つの筋群の総称で、”棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋”の四筋で構成されます(図1)。
四つの筋群は全て、起始は肩甲骨、停止は上腕骨ですので、肩甲骨(関節窩)と上腕骨(骨頭)の間で形成される肩甲上腕関節をまたぎます(図2)。
よって、肩甲上腕関節の安定性に関与すると言われています。
四つの回旋筋腱板のうち、肩甲骨の後面から起始する筋は、棘上筋、棘下筋、小円筋の三筋です。
それに対して肩甲骨の前面から起始する筋は、肩甲下筋の一筋です(図1)。
これらの筋は、腱板損傷やインピンジメント症候群でよく取り上げられます。
その中でも、腱板損傷やインピンジメント症候群の原因の筋となりやすいのが、棘上筋と棘下筋ですので1)、本記事の前半では、棘上筋と棘下筋の解剖学の基礎を確認し、後半では棘上筋に限定し最新の研究に触れいたいと思います。
棘上筋の研究では、棘上筋を前方部分と後方部分の2つに分けて記述されているため、どのようにして2つに分けているのか後半で解説したいと思います。
210例の回旋筋腱板断裂例の患者さんの断裂部位を調査した結果、40%の例で棘上筋と棘下筋断裂の複合断裂であったとの報告があります1)
腱板損傷や腱板断裂については以下の記事もご参照ください。
① 棘上筋と棘下筋の基本的情報
・棘上筋と棘下筋の起始は肩甲棘が境となる
・棘上筋と棘下筋の停止である大結節は3つの面からなる
② 棘上筋は二つに分類される?前部線維と後部線維とは
・棘上筋の前部線維と後部線維の分類方法
③ 棘上筋の2つのパーツは作用が異なる?
目次
棘上筋と棘下筋の基本的情報
棘上筋と棘下筋の詳細について確認する前に、基本的情報を整理します(表1)。
棘上筋と棘下筋の両筋は停止と神経支配が共通です。
棘上筋と棘下筋の起始は肩甲棘が境となる
両筋の起始は肩甲骨の後面で、棘上筋は棘上窩、棘下筋は棘下窩です。
肩甲骨が棘上窩と棘下窩に分けられる理由は、肩甲骨の後面では、中央よりは、やや上方に、肩甲棘という斜め外側に延びる骨の隆起があるためです(図3)。
このように肩甲骨の後面は、肩甲棘を境にして上と下にそれぞれ少々凹んだ面ができます。
肩甲骨の中で、どの領域に両筋が付着しているか示します(図4)。
※筋の骨への付着部位のことを、解剖学ではフットプリントと言います。
棘上筋と棘下筋の停止である大結節は三つの面からなる
棘上筋と棘下筋の両筋の停止部は、前述の通り上腕骨の大結節です。
この大結節には小円筋も付着するため、三筋が同じ領域に停止しているということです。
上腕骨の大結節の10円玉程度の大きさのような印象があると思います。
しかし、よく観察すると大結節は上面、中面、下面と面の向きが異なる三面からなる、ある程度の幅のある領域として確認できます(図5)。
このうち大結節の上面は上を向いています。
よって、上面に付着する筋は、上腕骨頭を上外方へ引っ張ることが考えられ、ここには棘上筋が付着すると言われています。
次に大結節の中面は後上方を向いています。
よって、中面に付着する筋は、上腕骨頭を斜め上外方へ引っ張ることが考えられ、ここには棘下筋が付着すると言われています。
最後に大結節の下面は後方を向いています。
よって、後面に付着する筋は、上腕骨頭を斜め外方へ引っ張ることが考えられ、ここには小円筋が付着すると言われています。
棘上筋は二つに分類される?前部線維と後部線維とは
ここからは棘上筋と棘下筋が最新の研究では、どの程度まで調査されているのか記載します。
一般的なイメージでは棘上筋の筋束は一つで構成されています(図6-a)。
しかし、解剖学の研究においては、棘上筋の筋束は二つに分類されます(図6-b)。
はじめて棘上筋を2つに分けたのは、Vahlensieck等 1993)で、棘上筋を前部線維と後部線維に分け報告しました2)。
どのように二つの筋束に分けているかというと、棘上筋の停止腱が関係します。
停止腱のうち、一部は筋の中にまで延びています(筋の中に延びている腱のことを、筋内腱といいます)。
棘上筋の前部線維と後部線維の分類方法
筋の中に存在する腱を”筋内腱”、筋の外に存在する腱を”筋外腱”といいます (図7-b)。
筋の中に延びた腱に停止する棘上筋を、棘上筋の前部線維、それ以外の棘上筋を後部線維と定義しています (表2)(図7-a,b)。
ここまでを整理すると、研究レベルの解剖学では、棘上筋は筋も腱も2つのパーツに分けられていました。
筋では前部線維と後部線維に分けられ、腱についても筋と対応するように、前部線維の腱、後部線維の腱で構成されています。
棘上筋の2つのパーツは筋線維も腱も構造が異なる
本記事では棘上筋は構造上の違いにより、前部線維と後部線維に分けられることをご確認いただきました。
棘上筋が肩関節の動きに関与した時に、前部線維と後部線維では、どちらの方に力が働くのでしょうか?
ここを理解することで、臨床的に棘上筋の前部線維が問題となりやすいのか?それとも後部線維が問題となりやすいのか理解することができます。
次の記事では、負荷の違いを理解した上で評価やアプローチに活かしていただけたらと思います。
参考文献
1.Kempf JF, Gleyze P, Bonnomet F, Walch G, Mole D, Frank A, et al. A multicenter study of 210 rotator cuff tears treated by arthroscopic acromioplasty. Arthroscopy. 1999;15:56–66.
2.M Vahlensieck, M Pollack, P Lang, S Grampp, HK. Genant Two segments of the supraspinous muscle: cause of high signal intensity at MR imaging? Radiology, 186 (1993), pp. 449-454