体幹編

第1回:腰痛の教科書

なぜ腰痛治療は難しい?知っておきたい腰痛の一般的事実
以下のような方にオススメ

□ 腰痛の危険因子を知りたい
□ 腰痛と年齢の関係を知りたい
□ ご自分の腰痛や周囲の方の腰痛と一般的な腰痛の方のデータを比較したい

医療職の方であれば腰痛の患者さんやクライエントさんを担当されたことがない方はいないのではないでしょうか?
また一般の方でも20歳以上の成人であれば、ご自分の体で腰痛を一度も経験をしたことがないという方もほとんどいないと思います。

それを裏付けるように整形外科の外来で最も受診されるケースが多いのが、正に今回のテーマである腰の痛み”腰痛”です。

腰痛による社会的・経済的問題

データによると腰痛は整形外科を含む全ての科で外来患者さんの約2.3%の主訴であったそうです(年間約1,500万人が受診)1)。
よって腰痛は社会的、経済的に大きな影響を与えています。

具体的には強度な腰痛の場合には、仕事に行けなくなり、欠勤してしまう主要な原因となっています。
(米国では2番目に多い欠勤の原因が腰痛です2,3)。

コスト面では腰痛の評価と治療費は年間330億ドル(日本円で3兆円超)とも言われ、休業や生産性の低下などの間接的なコストを加えると総額は年間で1000億ドル(日本円で10兆円超)の損失であるとも言われています4)。

このように腰痛は多くの方が経験し、社会的・経済的にも多大な問題が発生しています。
よって腰痛の記事はボリュームがありますので連載を予定しています。

腰痛の発生率と有病率

ここまでの内容で人口のかなりの割合で腰痛を経験していることがご理解いただけたと思います。
よって次に具体的な腰痛の発生率※1と有病率※2を確認します。

医療職の方は担当されている患者さんやクライアントさん、一般の方はご自分の腰痛の経験と照らし合わせてご覧下さい。

報告①:Saskatchewan州(サスカチュワン州)の成人を対象とした調査(1998)
→84%の方が生涯で少なくとも1回の腰痛を経験 5)

報告②:米国国民健康インタビュー調査(2002年)
→30,000人の参加者のうち26.4%が、過去3ヶ月間に少なくとも丸1日の腰痛を経験 6)

報告③:総説(2010年)
発生率:初回、随時、再発の腰痛の1年間のデータ:1.5%から80%
有病率:腰痛の1年間のデータ:0.8%から82.5% 7)

※一年間の発生率のデータまとめ
 ・初めての腰痛:6.3%-15.4%
・随時感じている腰痛:1.5%-36%
・再発性の腰痛:24%-80%

上記の数値が示すように、腰痛の発生率や有病率の報告にはバラツキがあり、特徴づけるのは難しいですが、皆様の経験と上記の数値は一致しましたでしょうか?それとも一致しませんでしたか?

もし一致しなかった場合には、どうして一致しなかったのか、この後の章をお読み頂きながら考察していただけたらと思っています。

発生率とは?
特定の期間内に、ある集団の中で、新たに生じた患者の率を指します。新たに生じた患者さんを問題にするため、発生率を調べる際の集団は、期間中に疾病に罹患する可能性のある人々に限られます。

有病率とは?
いつ病気にかかったかは考慮せず、ある時点(例:検査時 等)に、集団の中で、病気にかかっている人の割合を指します。

腰痛の危険因子

腰痛を評価し改善するためのアプローチを実施していくにあたり、腰痛の様々な背景を整理します。
まずは危険因子の把握から確認します。危険因子は以下の4つが報告されています。 

上記の通り危険因子が複数あるため、腰痛の評価には多角的な視点から病歴聴取と身体検査が必要であることが分かります。

腰痛の診察では、より重篤な基礎疾患や神経学的な異常が疑われる場合に限っては、画像診断も行われるのが一般的です。
しかし画像所見で検出される異常と実際に感じられている症状とが相関しない場合もよくあります。

そのような背景があるため、腰痛がなかなか完治せず再発することが多い一つの理由です。

年齢による発生率と有病率の特徴

皆様はじめて腰痛を経験されたのは何歳のときでしょうか。
私には3歳と1歳の子供達がおりますが、普段腰痛の方を担当している身として、よくあんなに無理な姿勢や動きしても腰を痛くしないものだなと関心する場面をよく目にしています。

子供達は画像のようなポーズで何十分も遊び続けますが、私が同じことをマネしても2-3分で腰が痛くなります。(画像は我が子が公園で車のおもちゃを遊ばせているものです)。

実際のデータで確認すると、発生率のピークは30代と言われおり、有病率のピークは60~65歳と報告されています。

まとめ

第1回のシリーズでは腰痛の概要について確認をしました。

第2回では腰痛の原因について確認します。原因を確認する上で腰椎の解剖学の知識が必須です。
(例:腰痛の原因となる脊柱管狭窄症と診断された時に脊柱管がどこのことを指しているか分からなければ、その先に進むことができないためです)。

次回もよろしくお願いいたします。

次の記事はこちら↓↓
第2回 腰痛の教科書 『腰痛を読み解くための解剖学 椎骨と脊柱管の解剖学』

参考文献

1.Deyo R.A., Mirza S.K., Martin B.I.: Back pain prevalence and visit rates: estimates from U.S. national surveys, 2002. Spine (Phila Pa 1976) 2006; 31: pp. 2724.
2.Lidgren L.: The bone and joint decade 2000-2010. Bull World Health Organ 2003; 81: pp. 629.
3.Levin K.H., Covington E.C., Devereaux M.W., et. al.: Neck and low back pain. Continuum (NY) 2001; 7: pp. 1-205.
4.Katz J.N.: Lumbar disc disorders and low-back pain: socioeconomic factors and consequences. J Bone Joint Surg Am 2006; 88: pp. 21.
5.Cassidy J.D., Carroll L.J., Côté P.: The Saskatchewan health and back pain survey. The prevalence of low back pain and related disability in Saskatchewan adults. Spine (Phila Pa 1976) 1998; 23: pp. 1860.
6.Deyo R.A., Mirza S.K., Martin B.I.: Back pain prevalence and visit rates: estimates from U.S. national surveys, 2002. Spine (Phila Pa 1976) 2006; 31: pp. 2724.
7.Hoy D., Brookes P., Blyth F., et. al.: The epidemiology of low back pain. Best Pract Res Clin Rheumatol 2010; 24: pp. 769-781.