触診

<解剖:遠位橈尺関節の形状> 触診精度を高めるための情報〜

遠位橈尺関節

こんにちわ。吉田俊太郎です。

本ブログでは対象者の方に触れた時、自分の手から感じ取れる情報量を増やせるよう、触診リテラシーを高めることを目標に、普段の評価や治療に役立ててもらえましたら嬉しいです。

触診の精度や正確性を高めるには、目的の部位の解剖学的情報が多ければ、多いほど触診能力が高まることは様々な部位で報告されています。

そのようなことから、本記事は触診の精度を高めるための解剖学的情報に関する記事を取り上げます。

また、このご時世、基本的な情報は溢れていますので、本ブログでは他では見ることの少ない内容を意識して作成しています。

今回取り上げる触診部位は、”橈骨遠位端骨折”や”TFCC損傷”の方で触れることの多い”遠位橈尺関節”です(図1)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
前腕
橈骨
尺骨

本記事の内容を動画にて確認したい方は以下をご参照ください。

遠位橈尺関節が問題の臨床場面とその症状

橈骨遠位端骨折やTFCC損傷は手関節周囲の疾患で最も担当することが多い疾患の一つです。
(橈骨遠位端骨折は、65歳以上の患者における全骨折の18%を占め 1)、2-6ヶ月はリハビリを中心とした保存療法が推奨されていたり 2,3)、TFCC損傷患者の半数以上が保存的治療によく反応したとの報告等があります 4)。

両疾患で問題となりやすい機能障害には、遠位橈尺関節の不安定性による、前腕の回内(手の平を上に向ける動き)(図2a)・回外(手の平を下に向ける動き)の可動域制限(図2b)と手関節の運動時痛とそれらに伴う手関節周囲の筋力低下等が挙げられます。

解剖学
前腕
橈骨
尺骨
回内
回外
遠位橈尺関節
図2 前腕の回内・回外の仕組み

これらの機能障害があると、食事や更衣、整容といった手を使う動作に支障をきたし、日常生活においても不自由を感じてることが増えてしまいます。

コラム:前腕の回内・回外運動の橈骨と尺骨の動き

前腕の骨は橈骨と尺骨の二骨で構成されます。
前腕回内位の場合は、橈骨と尺骨の二骨は平行い並びます(図2a)。
それに対して前腕回外位の場合は、尺骨は固定され、橈骨が尺骨の上を交差します(図2b)。

遠位橈尺関節の触診が役立つ臨床場面

遠位橈尺関節に限った話ではありませんが、遠位橈尺関節に不安定性があった場合に、不安定性を生じさせている問題の部位は、どの組織であるのか評価する必要があります。

そのためには、まず遠位橈尺関節の解剖学的な知識が必要です。

また、遠位橈尺関節の不安的性の評価において、代表的な検査に不安定性テスト(図3)、両側テスト(図4)等々がありますが、それら全ての検査において、遠位橈尺関節を触診し実施します

不安定性テスト
滑り
解剖
触診
遠位橈尺関節
図3 遠位橈尺関節の不安定性テスト
解剖学
触診
遠位橈尺関節
不安定性テスト
両側テスト
橈骨
尺骨
前腕骨
前腕
回内
回外
図4  遠位橈尺関節の不安定性テスト(両側テスト)


合わせて、どの方向に動きを誘導(サポート)すると、その方の症状が軽減または消失するのか評価する時には、一段と正確な遠位橈尺関節の触診が必要です。

遠位橈尺関節の動きを触診にて評価・アプローチする方法については、以下の記事で解説をしています。


リハビリ職は動きを評価し、動きにアプローチする専門家であるため、関節に関する記事は動きにも注目しています。

このようなことから、遠位橈尺関節の触診を実施するにあたり、事前に知っておきたい解剖学情報を発信します。

遠位橈尺関節の2つのバリエーション

遠位橈尺関節は、橈骨遠位の尺骨切痕と尺骨遠位の尺骨頭の間で形成される関節です。
凹凸の関係性については、尺骨切痕が凹、尺骨頭が凸です。

遠位橈尺関節は、前腕の回内と回外の動きに関与しますが、尺骨が軸となり橈骨が回転することで可能です(図2)。

その中で、この後ご紹介させていただく、解剖学的情報は2つあります。

①:凹側の橈骨の尺骨切痕の形状のバリエーション
②:凹側の橈骨の尺骨切痕と凸の尺骨頭の関節での傾斜のバリエーション

上記の2つのバリエーションがあることを知ることで、遠位橈尺関節を触診する時に、全員が同じ感触で触れるわけではないこと、触診にて様々な評価やアプローチを実施する時も全員が同じ反応のではないことの参考になりましたら幸いです。

尺骨切痕の形状 4つのバリエーション

橈骨の尺骨切痕の関節面は凹面です。この凹面の形状には4つのタイプが報告されています(図5)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
橈骨
尺骨
形状
バリエーション
図5 橈骨の尺骨切痕の形状のバリエーション

関節面の形状の違いにより遠位橈尺関節にかかる、圧縮力や剪断力に違いが発生します。

タイプ I の平面タイプであれば、関節の凹凸が少ないために、遠位橈尺関節の間の適合性が弱く、剪断力が発生しやすくなります。

タイプ II のCタイプは最も安定性に優れており、圧縮力、剪断力ともにバランスよく働きます。

タイプ III のSタイプと IV の滑り台タイプは接触面積が多い部分と少ない部分とに分かれるため、一部に圧縮力が集中しやすくなります。
圧縮力の強い部分は変形性関節症の発症が高いことも報告されています。

よって、遠位橈尺関節を触診しながら、剪断力と圧縮力のストレスをかけて、担当した対象者の方の訴えられている症状は、剪断力が原因の症状であるか(図3)、それとも圧縮力が原因の症状であるか評価します(図6)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
整形外科的テスト
圧縮テスト
圧迫テスト
リスター結節
図6 遠位橈尺関節の圧縮テスト

そのときに、剪断力を加えた場合に症状が増強する場合には、タイプIの平面タイプである可能性が高く、圧縮力を加えた時に症状が増強する場合には、タイプ IIIのSタイプかタイプIVの滑り台タイプの可能性が高いことが推測できます。

遠位橈尺関節の関節角度の3つのバリエーション

遠位橈尺関節を構成する、橈骨の尺骨切痕と尺骨の尺骨頭の間で形成される角度には、両骨の関節傾斜により、大きく分けて3つのバリエーションが報告されています5)。

CT検査にて合計26例の遠位橈尺関節を検査した結果、橈骨の尺骨切痕の角度の違いから、3つのタイプに分類されました。

・一つ目は、橈骨の尺骨切痕が垂直なタイプ
このタイプは26例中11例でした(図7a)。

・二つ目は、橈骨の尺骨切痕が逆斜めタイプ
このタイプは26例中10例でした(図7b)。

・三つ目は、橈骨の尺骨切痕が斜めタイプ
このタイプは26例中5例でした(図7c)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
形状
バリエーション
図7 遠位橈尺関節の関節角度のバリエーション

尺骨の尺骨頭の角度の違いから、さらにそれぞれで3つのタイプに分類されました(図6)(表1)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
橈骨
尺骨
形状
バリエーション

最も多いのは橈骨が逆斜めタイプで、尺骨は垂直タイプであり、最も少ないのは橈骨が斜めタイプで尺骨も斜めタイプでした。

バリエーションによる触診の難易度の違い

遠位橈尺関節は基本的に背側から触診します。そのため背側で橈骨の尺骨切痕と尺骨の尺骨頭の間が、Vの字に開いていると関節の間を触診しやすく、反対に閉じている場合には、境目を触診することが難しくなります。

Vの字に開き、遠位橈尺関節の境目が触診しやすいのは、橈骨側の傾斜と尺骨側の傾斜が反対となるタイプです(図8a)。
反対に遠位橈尺関節の境目が閉じており触診が難しいのは、橈骨側と尺骨側の傾斜が同一であるタイプです(図8b)。

解剖学
触診
遠位橈尺関節
橈骨
尺骨
形状
バリエーション
図8 関節のバリエーションによる触診の難易度の違い

まとめ

本記事では、以下の2点のバリエーションについて取り上げました。

①凹面の橈骨側の形状のバリエーション
②凹面の橈骨側と凸面の尺骨側の関節角度のバリエーション

これらの形状のバリエーションを理解することで、担当の方の遠位橈尺関節に触れたときに、少しでも疑問なく触診できる一助になりました嬉しいです。

遠位橈尺関節の触診に関しては以下の記事もご参照ください。


また本記事で取り上げた、形状のバリエーションは、形状が異なることは、遠位橈尺関節の動きにもバリエーションが生じることも意味します。

遠位橈尺関節の動きも理解し、触診にて動きも評価し、動き対してもアプローチしたい方は以下の記事もご参照ください。

最後までお読みいただき有難うございます。

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橈骨、尺骨、茎状突起、リスター結節、尺骨切痕、尺骨頭、遠位橈尺関節、腱鞘炎、上肢長、TFCC
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<参考文献>

1.Harper CM, Fitzpatrick SK, Zurakowski D, Rozental TD. Distal radius fractures in older men. A missed opportunity? J Bone Joint Surg Am. 2014;96(21):1820–1827.
2.Boland MR, Spigelman T, Uhl TL. The function of brachioradialis. J Hand Surg Am. 2008 Dec;33(10):1853-9. doi: 10.1016/j.jhsa.2008.07.019. PMID: 19084189.
3.Adams BD, Holley KA. Strains in the articular disk of the triangular fibrocartilage complex: a biomechanical study. J Hand Surg Am. 1993 Sep;18(5):919-25. doi: 10.1016/0363-5023(93)90066-C. PMID: 8228070.
4.Mesplié G, Grelet V, Léger O, Lemoine S, Ricarrère D, Geoffroy C. Rehabilitation of distal radioulnar joint instability. Hand Surg Rehabil. 2017 Oct;36(5):314-321. doi: 10.1016/j.hansur.2017.02.005. Epub 2017 Jul 24. PMID: 28751170.
5.Huang HK, Lee SK, Huang YC, Yin CY, Chang MC, Wang JP. Long-term radiographic outcomes and functional evaluation of ulnar shortening osteotomy in patients with ulnar impaction syndrome and reverse oblique sigmoid notch: a retrospective case series study. BMC Musculoskelet Disord. 2021 Feb 3;22(1):136.